イギリスの伝統的なファッション、通称「ブリティッシュ・トラッド(British Trad)」は、クラシックで、洗練された控えめなエレガンスを特徴とするスタイルです。このスタイルは、流行に左右されることなく長年にわたりスタイリッシュでままでいられる、とされています。
トラッドなアイテムは、卓越した職人技と細部へのこだわり、高品質な素材が特徴で、実用性を重視してデザインされていることが多いです。例えば、スタイリッシュでありながらイギリスの予測不可能な天候にも対応できる機能性を備えており、さらにシンプルさ故にカジュアルにもフォーマルにも着こなすことができます。そのため、長年にわたり多くの人々に愛され続けるスタイルとなっています。
以下は、その代表的なブリティッシュ・トラッドブランドの一例です。
トラッドなイギリスブランドとは?
バーバリー(Burberry)

イギリスのトラッドブランドといえば、まずバーバリーを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
1856年に創業されたバーバリーは、トレンチコートと特徴的なタータン柄で広く知られています。このブランドは、典型的なイギリスのスタイルを代表しており、特にトレンチコートは、細部までこだわり抜かれたデザインと優れた防水性で定評があります。機能性とスタイルを兼ね備え、予測不可能なイギリスの天候にぴったりのアイテムです。
バーバリーは、イギリスのスタイルの代名詞となり、世界的にも重要な存在感を誇っています。
(画像:https://uk.burberry.com/より)
ダンヒル(Dunhill)

1893年に創業されたダンヒルは、伝統的なイギリスの職人技とスタイルを強調したラグジュアリーなメンズウェアとアクセサリーで広く知られています。
特にライターやペン、時計などのラグジュアリーアクセサリーは、その細部までこだわった作りと上品なデザインで高く評価されています。
ダンヒルの製品は、いくつかのイギリス映画、特にジェームズ・ボンドシリーズにも登場しており、『ドクター・ノオ』(1962年)ではライターが使用され、その他の製品は『ゴールドフィンガー』『ライセンス・トゥ・キル』『トゥモロー・ネバー・ダイ』『ワールド・イズ・ノット・イナフ』『ダイ・アナザー・デイ』などで登場しています。
(画像:https://www.dunhill.com/より)
ポールスミス(Paul Smith)

1970年に創業されたポール・スミスは、イギリスファッションの先駆けとして知られ、クラシックなテーラリングに現代の洗練さを融合させたスタイルで知られています。伝統的なスタイルに色彩豊かなパターンやユーモラスな要素が取り入れられることが多いです。
1970年に創業されたポール・スミスは、イギリスファッションの代表的なブランドとなり、クラシックなテーラリングに現代のテイストを加えたデザインで広く知られています。伝統的なシルエットに対して、斬新で遊び心のあるディテールを取り入れ、シンプルさと創造性の絶妙なバランスを追求しています。ポール・スミスイギリスファッション界で確固たる地位を築き、世界中のファッション愛好者に愛されています。
(画像:https://www.paulsmith.com/より)
ジョンスメドレー(John Smedley)

ジョン・スメドレー(John Smedley Ltd)は、1784年に創業されたイギリスを代表する高級ニットウェアブランドで、世界最古の稼働工場の一つとして広く知られています。イギリス・ダービーシャー州のリー・ミルズに拠点を構え、創業当初は高品質なメリノウール糸やニット製アンダーウェアの製造を手がけ、その卓越した品質で高い評価を得ました。
現在では、ポロシャツやセーターをはじめとする高級ニットウェアで名を馳せており、200年以上にわたる家族経営を通じて品質への揺るぎないこだわりを維持しています。伝統を守りながらも洗練されたデザインを取り入れ、その美しさと実用性が多くの人々に愛されています。
また、ジョン・スメドレーは19世紀に「ロングジョンズ」と呼ばれるアンダーウェアを開発し、当時の人気アイテムとして注目を集めました。英国王室御用達ブランドとしての認定も受けており、その名声はイギリス国内外で揺るぎないものとなっています。
(画像:https://www.johnsmedley.com/より)
リバティ(Liberty)

(画像:https://www.libertylondon.com/より)
Liberty(リバティ)は、1875年にアーサー・レイセンビー・リバティ(Arthur Lasenby Liberty)によってロンドンで設立されました。創業当初は東洋から輸入した布地や高級品を扱う小さな店舗としてビジネスが始まりました。
リバティのビジョンは、ユニークでエキゾチックな商品を提供することだったため、当時としては革新的な試みでした。この店舗はすぐに人気を博し、ロンドンのファッショナブルな人々が集う場所となり、高級品とスタイルの象徴として知られるようになりました。
19世紀後半、リバティは特にテキスタイル分野で特徴的なアール・ヌーヴォー(Art Nouveau)デザインで名を馳せました。1884年にはコスチューム部門を設立し、リバティの布地を使用した衣服制作を開始しました。
1920年代にはテキスタイルだけでなく、家具や装飾品の制作も手掛けました。1930年代に導入された「Tana Lawnコットン」は、リバティの象徴的な製品の一つであり、その細かく軽量な品質と鮮やかなプリントは現在でも人気です。
ロンドンの象徴的なモック・チューダー様式のファサードを持つ店舗建築も、ランドマークとして広く認識されています。

バブアー(Barbour)

Barbour(バブアー)は、1894年にスコットランド・ギャロウェイ出身のジョン・バブアーによって、イングランドのサウスシールズで創業されました。現在も5代目の家族経営が続けられており、創業当初からの拠点であるイギリス北東部で操業を続けています。
創業当初は、地元の漁師たちを厳しい天候から守るためにオイルスキンコートの製造に特化していましたが、やがて耐久性と機能性で知られるワックスコットンジャケットの製造メーカーとして進化しました。このジャケットは、狩猟や釣りなどのアウトドア活動向けに設計され、イギリスの貴族やカントリースポーツ愛好家の間で高い人気を得ました。
また、バブアーは英国王室御用達(ロイヤルワラント)の認定を受けていることでその名声をさらに高めています。1974年には故エディンバラ公フィリップ殿下、1982年には故エリザベス2世女王、そして1987年には当時プリンス・オブ・ウェールズであり現在のチャールズ3世国王から認定を受けました。
(画像:https://www.barbour.com/より)
アクアスキュータム(Aquascutum)

アクアスキュータム(Aquascutum)は、1851年にテイラーのジョン・エマリーによってロンドンのメイフェアで創業され、革新的な防水生地の開発により注目を集めました。
1853年には、防水ウール生地を初めて導入し、この技術は第一次世界大戦時に軍服として採用されるなど、トレンチコートで知られるブランドの基盤を築きました。ブランド名「Aquascutum」はラテン語で「水の盾」を意味し、高品質で耐候性の高い衣服を象徴しています。
1897年にはウェールズ公(後のエドワード7世)から最初の王室御用達を受け、その後もイギリス王室や政治家、貴族、多くの著名人に支持されました。この歴史的背景とトレンチコートの普及により、アクアスキュータムは英国ファッションの象徴的存在となりました。
2017年以降、中国の山東如意科技集団がブランドを買収し、2023年からはイタリアのIcons srlがライセンス契約を結んでいます。現在のアクアスキュータムは伝統を尊重しながらも、現代的なスタイルを取り入れた新しいコレクションを展開しています。
マッキントッシュ

Mackintosh(マッキントッシュ)は、1823年にスコットランドの化学者チャールズ・マッキントッシュが発明した防水加工技術を起源とするブランドです。
綿布にゴムを塗布することで実現した防水性は、1824年に初めて商品化され、防水コート「マッキントッシュ・レインコート」(通称「マック」)として誕生しました。このコートは機能性とファッション性を兼ね備え、英国の上流階級に愛される定番アイテムとなりました。
マッキントッシュのコートは非常に精密で手間のかかる製造プロセスを経て作られます。1着1着が熟練した職人の手で仕上げられるため、年間の生産数は限られていますが、その分高い品質と耐久性を誇ります。
スコットランドのカンバーノールドにある製造拠点では、伝統技術を守りながら、現代のニーズに応える製品を生み出し続けています。また、ルイ・ヴィトン、バレンシアガ、メゾン・マルジェラといった高級ブランドとのコラボレーションも展開し、時代を超えた魅力を持つブランドとしてその地位を確立しています。
(画像:https://www.mackintosh.com/より)
プリングル・オブ・スコットランド(Pringle of Scotland)

(画像:https://pringlescotland.com/より)
Pringle of Scotland(プリングル・オブ・スコットランド)は、1815年にスコットランド・ボーダーズ地方のホイックでロバート・プリングル(Robert Pringle)によって創業されました。創業当初、ブランドは「Waldie, Pringle, Wilson and Co.」という名称で操業していました。
この地域は豊かな繊維産業の伝統で知られており、プリングルは当初、高品質なニット製品を中心としたホージャリー(hosiery:靴下や下着)の製造に特化していました。その後、ラグジュアリーなカシミアニットウェアと革新的なデザインで名を馳せるファッションブランドへと進化しました。
プリングル・オブ・スコットランドは、イギリスではアーガイル模様で有名なブランドとして知られています。アーガイル柄は、菱形のパターンとその重ね合わせが特徴で、もともとはスコットランドのアーガイル地方のクラン(氏族)の伝統的なタータンに由来します。プリングル・オブ・スコットランドは、この柄をモダンなファッションへと昇華させ、多くの人々に愛されるスタイルを確立しました。
19世紀後半には、そのアイコニックなアーガイル柄で国際的に評価されるようになり、1920年代にウィンザー公(後のエドワード8世)が取り入れたことで一層人気を博しました。さらに、イギリス王室御用達(ロイヤルワラント)の認定を受け、王室へのニット製品供給を通じてその地位を強化しました。
創業以来、プリングル・オブ・スコットランドは、スコットランド産のカシミアなど最高品質の素材を使用し、職人技にこだわり続けています。
ハリスツイード(Harris Tweed)

ハリスツイード(Harris Tweed)は、スコットランドのアウター・ヘブリディーズ諸島(the Outer Hebrides of Scotland)で手織りされる高品質な織物で、優れた耐久性と独自の模様で広く知られています。職人たちは自宅で伝統的な技術を用いて手織りを行っており、すべての製品が唯一無二のものとなっています。この技術は何世代にもわたって受け継がれています。
使用される素材はピュアバージンウールで、島内で染色や紡績が行われます。この過程により、ハリスツイードは高い保温性と耐久性を誇り、特にコートやジャケットなどに最適な素材となっています。
ハリスツイードはファッションブランドというよりも独自の布地として有名です。その品質、耐久性、特徴的なパターンはファッション業界で非常に高く評価されており、多くのブランドで使用されています。特に、トラディショナルなジャケットやバッグなどに用いられることが多いです。
ハリスツイードの特徴的な色合いと複雑な模様は、複数の色糸を組み合わせた斑点模様が生み出す風合いにあります。織り目の中に異なる色の糸を混ぜることによって、「フレック」と呼ばれる斑点模様が現れます。これにより、布地には細かな色の斑点がランダムまたは計画的に織り込まれ、独特な風合いが生まれます。
(画像:https://www.harristweed.org/より)
ハンター

ハンター(Hunter)は、英国を代表するフットウェアブランドで、その象徴的な長靴で広く知られています。
イギリスでは長靴を「ウェリントンブーツ(Wellington Boots)」と呼ぶのが一般的です。この名称は、19世紀初頭にウェリントン公爵アーサー・ウェルズリーが乗馬や戦闘用の革製ブーツを改良したことに由来します。その後、このブーツは「ウェリントンブーツ」として知られるようになりました。
19世紀半ば、産業革命の技術革新によりゴム製のウェリントンブーツが登場します。1856年に設立されたハンター(当時はノース・ブリティッシュ・ラバー・カンパニー)は、防水性に優れたゴム製ブーツを生産し、農業や屋外作業に適した実用的なブーツとして高い人気を博しました。
(画像:https://hunterboots.co.uk/より)